氷粒(こおりつぶ)
「だから、貴方はそっち、私はこっちから飛べばいいんでしょう」
真っ白なドレスを身に着けた少女が、指をさしながら懸命に説明している。
少女の目の前には、細身の青年が、口元に優しい笑みを浮かべながら、少女の話に耳を傾けていた。
「無理だよ。どうあがいたって独り外れる事なんてできやしないさ」
「そんなの、やってみなきゃ分からないでしょう」
少女は怒ったように口を尖らせる。
凍った空。鉛色の景色。
キラリと光る星と雲の間で言葉が交わされる。
「どうしてそんなに独りになりたいのさ。
いずれ僕らは同じようにここに帰ってくるっていうのに」
青年はもう何度も聞いた少女の話をいつものように聞き終え、うんと背伸びをした。
「だからよ」
答えと同時にくしゃみをすると、身体から小羽が飛び散った。
「いつも一緒、いつも同じじゃつまらない。
たまには皆と違う、別の道を辿ってみたい時もあるわ」
「でも君は綿だね」
「それが何」
「僕らみたいに粒だったらまだ希望はあるけどね。
僕らは風の手を滑り抜ける事もできるから」
得意げに言いながら 彼がひとまわり小さい身体をひるがえすと
凍った空気が宙を駆け抜ける。
それを睨みながら、少女は小さく聞いた。
「私は」
「君達は嫌でも風に捕まってしまうだろう。
そしてふわふわ漂いながら舞い降りる・・・
ああそうだ。君、ダンスの練習はバッチリかい?」
「やめてよ」
彼女が怒ったように頬を膨らませると、
身体が空気を吸い込んでまたひとまわり大きくなった。
「そんなに怒るなよ
よし。お詫びにいい事を教えようか」
「何」
「僕だけが知ってる秘密の道さ。
君が上手に踊れたら、特別に連れて行ってあげるよ」
「ホントに」
「ホントだよ」
青年が軽くウインクすると、彼女は途端に顔を輝かせる。
星の光が二人の身体に反射してチカリと光った。